トラック新法が求める「適正原価」とは?
荷主企業が知っておくべき下回る運賃禁止とコスト削減策

トラック新法は、2025年6月に公布されたもので、物流業界の構造的な課題が是正された重要な法律です。特に荷主企業にとって課題となるのが、標準的な運賃が廃止され、適正原価が導入されることです。トラック輸送の運賃の適正化を進めるために、適切に対応する必要があります。
そこで今回は、トラック新法の概要から主な変更点、トラック新法の変更点の一つである「適正原価」を下回る運賃禁止の概要、荷主企業が適正運賃の支払いを拒むことのリスク、荷主企業の運賃の値上げ対策をご紹介します。
トラック新法とは?
まずはトラック新法の概要と主な変更点をご紹介します。
トラック新法とは?
トラック新法とは、「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」と「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律」の2つの法律を指します。
本法の施行により、主にトラック運送事業を健全に運営するため、諸制度に関する見直しが行われました。
トラック新法の主な変更点
トラック新法では数々の制度が見直された中、次の5つが大きな変更点となっています。
・5年ごとの許可更新制度の導入
一般貨物自動車運送事業に5年の有効期限が設けられました。
・白トラ規制強化
白ナンバーの自家用トラック運送問題について規制が強化され、違法行為として明確に位置づけられました。
・多重下請け構造是正のための再委託回数制限
運送事業者の下請けの多重化を是正するため、原則「二次下請け」までにとどめるよう努力義務が課されました。
・適正原価を下回る運賃禁止
過度な運賃の値下げ競争が問題視されていたことを背景に、国が定める適正原価に基づいた最低運賃を下回る契約が禁止されました。
・ドライバー処遇改善義務化
ドライバーの低賃金や長時間労働などの就業環境の問題に対応するために、運送事業者にドライバーの処遇改善が義務付けられました。
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トラック新法とは?物流業界への影響と背景をわかりやすく解説
トラック新法の「適正原価」を下回る運賃禁止とは?
主な変更点の一つである「適正原価を下回る運賃禁止」について詳細を見ていきましょう。
適正原価を下回る運賃禁止とは?
運送事業者は、自ら貨物を運ぶときや、他の事業者に運送を委託するときは、国土交通大臣が定める「適正原価」を継続して下回らないことが義務付けられました。
標準的運賃と適正原価との違いについては次の通りです。
標準的運賃:運送事業者が自社の適正な運賃を算出し、荷主との運賃交渉に臨むにあたっての参考指標
適正原価:運送に関わるすべての費用を合計した原価を適正に定めた基準
原価とは、燃料費や人件費、車両の管理費や減価償却費などを合計した金額です。運送事業者はこの原価を下回る運賃で運ぶと赤字に陥ってしまいます。そのため、適正原価よりも高い運賃で物を運ぶことで、事業の継続が可能になると考えられています。
【適正原価の主な内訳】
・燃料費
・全産業の労働者一人当たりの賃金の額の平均額を踏まえた人件費
・減価償却費
・輸送の安全確保のために必要な経費
・委託手数料
・事業を継続して遂行するために必要不可欠な投資の原資
・公租公課
等
出典:国土交通省「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律 貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律 概要」
「適正原価」を下回る運賃禁止の背景
なぜ、適正原価を下回る運賃が禁止されるのでしょうか。その背景として、次の点があります。
従来は標準的運賃が示されていましたが、これには法的拘束力はありませんでした。そのため、過度な値下げ競争が減ることもなく、ドライバーは低賃金と長時間労働に苦しみ、安全性にもリスクが高まっていました。こうした切迫した状況が背景にあります。
荷主企業の法令遵守の必要性
適正原価は国土交通省が定めており、運送事業者がこれを下回る運賃で仕事を引き受けたり、荷主企業が契約させたりすることは法令違反となり、行政指導や処分の対象となります。
そのため、荷主企業は法令を遵守し、適切に対応するために、運送事業者の原価をしっかりと把握しておく必要があります。
取引のある運送事業者の原価の開示を求め、その金額を把握することが必要です。その上で、適正な運送料金を設定することが求められます。
適正運賃の支払いを拒むことのリスク
荷主企業が適正な運賃支払いを拒むことで生じるリスクとして、主に次の点が挙げられます。
将来的に「モノが運べなくなる」リスク
荷主企業が適正運賃の支払いを拒んだ場合、運送事業者は荷主企業との取引から撤退する恐れがあります。荷主企業は運送サービスを利用することができなくなり、事業継続が危ぶまれます。
行政処分の対象となるリスク
法令違反となれば、行政指導や処分の対象となることから、損失が大きくなります。そして社会的なイメージダウンにより、事業継続が危ぶまれ、経営難に陥ってしまいます。
荷主企業の運賃の値上げ対策
運送サービスを利用する荷主企業にとっては、運賃の値上げが当面の課題として重くのしかかってきます。これに関する対策を見ていきましょう。
コンプライアンス強化・適正な取引条件の見直し
一番に対応するべきは、コンプライアンスを強化し、適正な取引条件を見直すことです。健全な取引を率先して進めることが、結果的に自社への利益につながっていくでしょう。
また適正原価以下の取引は、下請法違反とみなされるリスクとなるため、十分に注意する必要があります。
物流コストに関する意識変革
「物流コスト」の意識を変革することが一案です。従来、物流コストは単なるコストの一つであったため、できるだけ価格は交渉の上、下げることが第一優先でした。しかし、安易に下げることができない状況になった今、単なるコストではなく、インフラとしての重要投資へシフトさせることが一案です。
物流コスト低減施策の実施
あわせて、物流コストを最適化し、低減するために、物流効率化などの取り組みが有効です。
・共同配送
共同配送とは、複数企業や事業所が連携を取りながら、同じトラックやトレーラーなどに荷物を積載して効率的に配送する方法です。トラックの積載効率が上がり、トラック台数を減らすことができます。その結果、運賃の低減につながります。
・物流効率化
物流プロセスを見直し、全体的な効率化を図ることで、コストの最適化が可能です。例えば、荷待ち時間の短縮に向けた改善、パレット化の推進や梱包箱の縮小による積載効率向上、発注時間の見直しなどが挙げられます。
・モーダルシフト
モーダルシフトとは、トラック輸送から、船舶や鉄道、航空機等の輸送方法に切り替える試みです。
モーダルシフトと聞くと、リードタイム延長や輸送品質の低下、輸送コストの増加などのイメージがあるかもしれません。しかし、コスト削減につながることがあります。特に船舶輸送は大量輸送が可能になるため、長距離輸送の場合、コストを低減しやすいところがあります。
特に船舶輸送の中でもフェリー輸送は、法令遵守とトータル物流コストの最適化を両立します。
フェリー輸送とは、トラックやトレーラーなどで、貨物を港まで輸送し、目的地に近い港まで、トラックやトレーラーをフェリーに船積みして輸送する方法です。
無人航送の場合、ドライバーは船に乗り込まないため、労働時間の削減につながります。有人航送の場合は、ドライバーがトラックとともに乗船しますが、フェリー乗船時間は全て休息期間にできる特例があるため、拘束時間の上限を遵守しやすくなります。
また大型フェリーは輸送時の振動を抑えられるため、商品へのダメージ軽減につながります。大量輸送によりコスト削減のメリットも期待できます。
このことから、特に船舶輸送によるモーダルシフトは、荷主企業の運賃値上がり対策の一つとして有効な施策といえるでしょう。
